たーまん世界を歩く

ただただ忙しく過ぎていく社会人生活に、漠然とした焦燥感を覚え、昨年秋に一念発起して退職しました。
そして半年間、寝る間を惜しんでリゾートホテルの住み込みバイトで貯金し、2019年6月1日、関空から出発。
目的は、これまでの人生で知らなかったことを見聞きすること。世界見聞家・たーまんの誕生です!
カタコトの英語と予算約100万円での旅はYouTubeでも配信中ですが、映像に入れられなかったことを
こちらのブログで紹介していきます。たーまんの珍道中、応援よろしくお願いします!

Vol.29

マレーシア⑦

【脅威!!人間が絶対に勝てないもの!!!!】

高さにしてどれほどの水位だったか分からないし、他のみんながどこにいるのかも分からない!
とにかく気づいた時には濁流に流されていて、僕は泳ぎが得意な方だが、泳ぐだとかそういうレベルじゃない勢いに翻弄されていた!
息をするのと流れる先を見ることがやっとの状態だった!

(とにかくスピードが収まるまで流されよう!)
としていた僕の流れる先には身体より遥かに大きな岩が待ち構えていた。

(このスピードで当たったらヤバイ。)

そう頭で思った瞬間に岩に激突した。
全身が痛かったが、とにかくどこか出っ張りを掴んで岸に上がろうとする、も、どうやら左足が川底に吸い込まれている!

海や川のテトラポットに近付くと吸い込まれて出られなくなるというが、それと同じ原理で、おそらく壁のようになっている岩と岩の隙間に大量の水が流れ込んでいるのだろう。
僕の足はそこにハマり、強い力で川底へと吸い込まれていた。

足が吸い込まれているので、身体が下がり、息ができない。頭より数十センチほど上に水面がある。 なんとか必死で岩に掴まろうとするも、岩肌がツルツルで何も掴めない。

「助けて…!!助け、て…!!!!!」

必死で叫ぼうとするも、わずかな時間しか頭を水面に上げられず上手く叫べない。
こんなに本気で誰かに助けを求めたことは生涯で初めてかと思う。

文字通り必死でしかなかった。
周りの状況もわからないので、他のみんなが近くにいて助けに来てくれるかもという期待と、かなり流された僕の周りに誰もいないかもという不安があった。

息ができなくて苦しい。
人の身体は不思議なもので、頭では分かっているのに息をしようと必死に口を開けてしまう。
空気の代わりに入ってくるのは大量の泥水だ。
息ができない状態で泥水を飲み続けるのは本気で苦しかった。

(このまま泥水を飲み続けたら、身体が浮かなくなるかもしれない)

なんとか岩肌を掴もうと必死でバシャバシャ動きながら、頭の中は意外に冷静だった。
諦めに似た気持ちもあったのかもしれない。

(このまま死んだら、さすがに新聞載るやろなぁ…”マレーシアのジャングルで邦人死亡”とかなんのかな…)
(家族とか、応援してくれた人はなんて思うかな…申し訳ないな…)

グンッ!

その時、両脇の下に腕が入ってきたような、上に引っ張り上げられるような感覚があった!

(助けが来た!!!!!助かった!!!!)

僕は引っ張り上げてもらおうとバシャバシャをある程度抑え、動きを緩めて救助を待った。
が、全然上げてくれない!

(待って苦しすぎる!)

またバシャバシャを始めようと左腕を岩肌に当てた瞬間、手が引っ掛かりをとらえた!!
(救助来たけどもう自力で上がってやる!!)
持てる力の全てを使い、その引っ掛かりからなんとか息のできる水面へ上がれた!!!
続いて息を整え、一気に岩の上へ!

(助かった…)

周りを見渡すと、誰もいなかった。

だけど、確かに引っ張り上げられるような感覚があった…僕は、もう死んだ母親と弟が助けてくれたのだと本気で感じた。
ただ、涙を流すほどの身体と心の余裕はまだなかった。

岩の上から川を眺めると、川は完全に茶色く濁った濁流と化し、巨大化した湖に注ぎ込んでいた。
我々のいたところが最も流れが強かったのかもしれない。

どうやら、川の向こう岸に渡れたグループ・湖の奥に流されたグループ・僕という3グループに分かれてしまったようだ。

当然メガネも流されたので、スマホのカメラで拡大しながら辺りを見ていると、おばあちゃんが岩の反対側に浮いている!!
どうやら自力では上がれないようだ。

独特な手触りと匂いを発するコウモリのフンにまみれながら、おばあちゃんの救助に向かう。
なんとか辿り着き、川からおばあちゃんを引っ張り上げた。
期待していた訳でもなんでもないが、普通に「ありがとう」という会話があるかと思っていたけれど、おばあちゃんから最初に出た言葉は

「夫を見た?」

だった。 僕はゾッとした。

たーまん「いや、見てない。けど、どうやら岩の奥に何人かいるみたいだから、そこにいるはずだよ」

おばあちゃんは黙っていた。

その後、ヘッドライトを照らし合って川の向こう岸グループと安否確認を行ったところ、ここから見えない湖の奥にやはり何人かいるらしい。
遠いのと川の音が大きいのでなかなか声が聞こえないが、一人は失神しているようだ。

たーまん「一人は失神しているらしいけど、生きてるみたいだよ」
「そう…あなたは大丈夫?」
たーまん「僕は大丈夫だよ」

言われて気づいたが、全身の裂傷で僕も血まみれだった。
どれだけ待ったか分からないが、ひたすら救助を待ち続ける間、おばあちゃんはずっと黙っていた。

その後、国立公園の救助スタッフが到着。
流れの緩い湖から太いロープを渡し、全員が湖の奥グループの場所に集合した。
何故か号泣してるスタッフが1名いたが、おじいちゃんはいなかった。

国立公園のスタッフから、おじいちゃんとガイドが行方不明なこと。
ガイドのTシャツだけは見つかっていることが伝えられた。
おばあちゃんは泣きだした。

たーまん「でも流されてるんだったら少なくとも川の先にいるはずじゃないの?」
スタッフ「いや、この湖の奥は水だけが流れるパイプ状になっていて、その水がどこに流れているのかは不明なんだ。嵐で本土から陸軍が来れないので、僕らもギリギリまで2人を探すが、みんなは先に受付所に戻って欲しい。」

そのセリフとスタッフの表情から2人の生存は絶望的だということが伝わった。
なんとか身体だけでも見つけようとしていることは明らかだった。
号泣しているスタッフはガイドのお兄さんらしい。
見つかるまでここにいると言うおばあちゃんを全員でなんとかなだめ、慰めた。

スタッフは来てくれたものの、我々はまた徒歩で受付所まで進む他なかった。
全員ボロボロの状態のままやっとの思いで洞窟を抜けたが、外はまだ雨が降っていて、傘も持っていない僕たちはまたびしょびしょになりながら、落雷で倒れた木を切って道を作るなど、救助されてるというよりほぼ自力で受付所への道を進んだ。

つづく