たーまん世界を歩く

ただただ忙しく過ぎていく社会人生活に、漠然とした焦燥感を覚え、昨年秋に一念発起して退職しました。
そして半年間、寝る間を惜しんでリゾートホテルの住み込みバイトで貯金し、2019年6月1日、関空から出発。
目的は、これまでの人生で知らなかったことを見聞きすること。世界見聞家・たーまんの誕生です!
カタコトの英語と予算約100万円での旅はYouTubeでも配信中ですが、映像に入れられなかったことを
こちらのブログで紹介していきます。たーまんの珍道中、応援よろしくお願いします!

Vol.30

マレーシア⑧

【生還!!嵐の翌日!!!!】

ドミトリーのベッドで、だんだん明るくなってきた外の景色と共に目を覚ます。

壁も何もなく、プライバシーゼロの空間で朝を迎えるのにもずいぶん慣れた。
なんなら自分のベッドとこの広い部屋に愛着すらあるが、今日でここグヌン・ムル国立公園とはお別れだ。

ムル島から出る朝一番の飛行機でマレーシア本土へ向かい(朝一番といってもこの島から飛ぶ飛行機は1日に2本だけなのだが…)本土で乗り換えて知人のコスガさんが待つタイへ向かう予定だ!

すぐに空港へ向けて出発しなければならないが…僕のベッド周りは依然ぐちゃぐちゃに荷物が散らばったまま。
誰がどう見てもすぐ出発できない!
まぁ、財産のほとんどをベッド周りに置いて行く捨て身の勇気を発揮すれば行けないこともないが、今は確実にそんな時じゃない。

仕方ないのでのっそりと起き上がりだらだらと荷物の整理を始めるも、作業している間ずっと身体中から独特な匂い…コウモリのフンの匂いがする!
奴ら果物や虫しか食べないのでフンはそんなに臭い訳じゃないのだけど、ちょっと芳ばしいというか、まぁ、とにかく独特な匂いがするのだが、前日ちょうどそれを全身に浴びたところだ。

大雨で洗い流され忘れていたけれど、そういえば昨日はシャワーにも入ってないし、びしょびしょに濡れた服とスニーカーはまだ乾いてない。
よく考えたら自分自身も全身傷だらけだった。

昨日は長い1日だった。

洞窟内の河で流され、救助を待ち、救助されたと思いきや大雨が降る夜のジャングルを数時間歩き、ほうほうの体でこの場所まで帰ってきた。
戻った我々を待っていたのはタオルと、完全にのびきったパスタと、島唯一の医者によるドクターチェック。
タオルとパスタは2人分余っていた。

ドクターチェックを待つ間、家族と連絡を取るためフロントにあるWi-Fiを使えることになったので、僕は家族写真を送ってもらうことにした。
こんな状況なのにいつも通り返信がくることに安心し、死ぬほど会いたくなってきたので、待ち受け画面に設定しておいた。

ドクターチェック(備品がないらしい医者から普通サイズのバンドエイドを大量に貼られた)の後、救助の為スタッフに何が起こったかを共有する時間が取られた。

そのところによると、ガイドさんは失神した1人の救助の為に河に飛び込んでロープごと流され、おじいさんの姿は誰も見えなかったそうだ。

スタッフから「怪我が悪化する可能性もあるので数日は島に残って欲しい」と伝えられたが、僕はというともう知っている誰かに会いたくてたまらない状態になっていた!!

「いや、僕はチケット買ってるから明日もう出ます!」

おそらく不安だったのだろう。
予定を変更せずタイへ向け出発することにした。

その後疲れきった僕はドミトリーに戻ってベッドに倒れ込み、朝まで眠り続けたのであった…

そして現在、シャワーを浴びた僕は荷物の整理を終わらせ、リュックを担いでいる。
二日前に貰ったお菓子の盛り合わせは遥か昔のものに見えた。

ドミトリーから外に出て、おばあさんの眠るバンガローに向かおうかと悩んでいたのだが、行ったところで何ができるのか分からず、何を言えば良いのか分からず、そのまま国立公園を去ることにした。
彼女はあの後、2人で過ごしたバンガローで1人眠り、何を考えたのだろうか。
おじいさんの荷物を見て何を思ったのだろうか。
人生を共に過ごしたパートナーを失うのは、どんな気持ちなのだろう。

あの時、溺れていた僕が救助されたと錯覚したのは、おそらく防水リュックだろう。
一緒に沈んでいたリュックが何故か水面に飛び出たから、ちょっと冷静になれたのかもしれない。
溺れた時はとにかく冷静に、というから、僕もきっとパニック状態だったのだろう。
間違いなく、人生の中で最も死に近づいた瞬間だ。

あの時、レストランのおばちゃんが防水リュックの話をしなければ…土産屋のおばちゃんが閉店を煽らなければ…
僕の人生は変わっていたかもしれない。

道中、ツアーで一緒だったアメリカ人と話をして、お互いの無事な旅を祈って別れた。
空港には大勢のマレーシア陸軍が到着し、救助の準備をしていた。

人生はいつ終了するか分からない。
今生きるこの瞬間を、最高に楽しいものにしないといけない。

そんなことを思いながら、僕は飛行機へ搭乗した。

つづく